2013年7月14日日曜日

失われた世代

ロストジェネレーション(Lost Generation)を日本語に直すと「失われた世代」である。別称は「失われた10年」である。私はこれを「価値観の転換を求められた世代」と解釈している。日本における最近の「失われた世代」は、1992~2002年の10年間だったと思っている。日本の国内総生産(GDP)が停滞してしまった期間である。
1982年~2009年の日本のGDPを以下に示す。

年   GDP(兆円)
1982  276.2
1992  483.3
2002  489.9
2009  474.0

1982~1992年は、GDPは順調に増大して行った。1993年以降はGDPの伸びは止まり、500兆円/年あたりで停滞してしまった。 
日本国の身の振り方を考えるべき事態に直面したようである。
頼みの綱は、国際収支の経常収支であるが、全く頼りにできない。発電用燃料の輸入増で、貿易収支は2011年以降赤字が続いている。このため経常収支も先細りで、何時赤字になるか心配である。

    移転収支  貿易収支  サービス収支  所得収支  経常収支
2008 -1.35兆円   4.03     -2.14       16.12     16.66
2009 -1.16      4.04     -1.91       12.77     13.74
2010 -1.09      7.98     -1.41       12.41     17.89
2011 -1.11     -1.62      -1.76       14.04       9.55
2012 -1.14     -5.81     -2.49       14.27      4.82
2013 -0.32     -3.20    -0.67        6.46      2.27
(2013年は、年半ばの数値である)

2011年3月11日の東日本大震災により、国内の原子力発電所は実質的に運転停止となり、燃料輸入等が増加し貿易収支が逆転し赤字となった。これに伴い経常収支も悪化し始めた。貿易立国日本の足元が、ふらついてきたようである。日本経済の健康状態も怪しくなってきている。

1993年以降「失われた10年」に入り「価値観の転換」を迫られたが、迫られたまま更に10年を重ね、「失われた20年」となっている。
この20年間、経済学者や法学者は、日本の内需拡大のためにどんな施策を考えてくれたのだろうか。

技術者の手法では、関連する多様な諸条件を漏れなく吟味し、各条件毎に「緻密な実験」又は「数値計算シミュレーション」を行い、この中から最良と思われる方式を選び出して採用する。
経済学者や法学者は、内需拡大の「経済政策シミュレーション」や「法案シミュレーション」を行ったに違いないと思っている。この経済学者・法学者のシミュレーション結果を探しているが、未だ見つからない。私は門外漢だから、探し方を知らないせいだろうと思う。国家機密かも知れない。


少子・高齢化の趨勢の中で、「内需拡大」を画策するには、思い切った価値観の転換が必要である。とにかく「ママパワー」の活用がカギとなると思っている。フィギュアー・スケートの安藤美紀はママパワーの象徴であり、日本の希望の星である。2014年のソチ・オリンピックでの大活躍を切望してやまない。
少子化対策の必須条件は、「子持ち女性の社会進出を全面的に支援する社会機構」を作り上げ、ママパワー全開の日本国にすることである。

少子化の根本原因は、女盛りの20歳台に、女性がほとんど結婚しなくなったからである。昨今の大和撫子は、卵子の老化が心配される30歳台にならないと、結婚を考えてくれないようである。
世界保健機構(WHO)2013年版によれば、日本女性の特殊出生率(女性が一生涯に平均何人の子供を産むか)は1.4である。1.4が長期間続けば、日本民族は滅亡するであろう。
世界各国の中で、1.4の同率の国を探したら結構ある。オーストリア・ドイツ・イタリア・韓国等である。1人っ子政策の中国は1.6で、看板に偽りありだ。

女盛りの20歳代の女性の大部分に結婚していただき、公営の保育園・幼稚園を早急に数多く整備し、ママパワーを全開にしてもらって、「内需拡大」・「労働人口の増大」に繋げることが肝要である。

第2次安倍内閣は、アベノミクスを提唱し、停滞した日本経済の活性化を進めようとしている。どの程度の効果が期待できるのか、私なりに吟味してみた。
アベノミクスの3本の矢は下記である。

  ①紙幣の多量発行
  ②機動的な政府財政支出
  ③民間投資の惹起

2012年12月26日第2次安倍内閣が発足し、2013年3月20日日銀総裁に黒田東彦氏を着任させた。そして市中銀行から日本国債を買い集め、多量の1万円札をばら撒き、①の目標は達成できた。為替は通貨同士の物々交換である。日本通貨がだぶつけば、円安になるのは当然である。2013年7月初旬では、100¥/$ の円安である。だぶついた日本通貨が、現在どうなっているかが肝心な所である。市中に出回って景気回復に役立っていれば万々歳であるが、そうではないらしい。市銀が日銀に設けている当座預金に入れられて、結局だぶついた日本通貨は日銀に戻ってしまった。従て、これ以上の円安の進行は考えがたい。金は金融機関内で動いただけである。

②は、色々な問題を内包しながら、進行中である。パブルの頃の建設業界は巨大な胃袋を持ち、政府の建設投資を悉く呑み込み消化した。
昨今の建設業界は、小柄でスマートになった様である。2011年度の東日本大震災復興予算は、各省庁の合計で15兆円程度あった。実際に年度末までに執行できたのは、9兆円程度で6兆円の食べ残しが発生した。この食べ残しに小雀や嘴太からすが群がった。16基金23事業である。1兆円程度のつまみ食いであったらしい。とっ捕まえて吐き出させても、取り戻せるのは1割の千億円程度の様である。
この様なごたごたした進行状況であるから、「機動的な政府財政支出」とはほど遠いものである。

③は安倍内閣の願望である。安倍首相は具体的手法を持っていない。デフレ脱却には新規需要の掘り起こしが必要であるが、基本的には国民所得が増えない限り、目に見える新規需要は生じ難い。物価上昇目標2%を提唱して、新規需要の掘り起こしを狙うのは、明確な「ばくち」である。この「ばくち」により長期金利の上昇を招くと、国債利払いが恐ろしいほどの巨額になる危険性を孕んでいる。長期金利が3~4%になった場合、国債残高は1000兆円程度だから、30~40兆円/年の金利負担となってしまう。ばくちの副作用である。
ただし、1000兆円の国債の大部分は日銀が保有しているので、巨大な金利負担も結局日銀に収まり、市中には出回らない。帳簿上の話だけで実害は少ないはずである。

アベノミクスの成果は、日銀券の発行だけであったが、円安は 100¥/$ 程度でお終いである。むしろインフレ2%目標のばくちの副作用の方が、遥かに恐ろしいが、これは帳簿上の話である。

折角のアベノミクスではあるが、「GDPの拡大」や「ママパワーの活用」に頭が回っていないのが誠に残念である。日本国政府は、今の所GDPの停滞から脱出する手立てを見付けられないようである。

2013年7月21日は、参議院議員選挙である。皆さん忘れずに選挙に行きましょう。
選挙公報を眺めてみたが、「・・・反対」を叫ぶ政党がやたらと多い。しかし残念ながらGDP拡大策を具体的に提示した政党は、見当たらないようである。私としては止むを得ず、人物本位の無念な投票をすることになる。
以上

2013年7月1日月曜日

台湾の原子力発電

極東の中で最初に原子力発電所を設置したのは、日本である。1957年11月1日、電力会社9社と電源開発(株)の出資により、日本原子力発電(株)が設立された。「原電」又は「日本原電」と略称される。
「原電」により、日本最初の原子力発電所が東海村に建設された。東海原子力発電所1号機である。英国製のコルダーホール型発電炉である。輸入炉ではあるが、耐震性については日本独自の工夫がなされている。中性子減速材は黒鉛であり、燃料は天然ウランを使用する。
1960年1月16日着工、営業運転開始は1966年7月25日である。電気出力は、僅か17万kw程度である。この炉の本来の目的はプルトニウム製造である。燃料再処理は英国が行うことになっていた。運転終了は、1998年3月末日である。以降廃炉作業が行われている。

11年後1971年11月韓国古里原子力発電所着工、12年後1972年6月台湾金山原子力発電所着工の順になっている。韓国に次いで台湾は、極東で3番目の原子力発電所設置地域となった。
第一原子力発電所1号機は、1972年6月2日着工、1978年12月10日営業運転を開始している。出力60万kwの沸騰水型原子炉(BWR)である。福島第一原子力発電所と同型である。
極東で「沸騰水型」と「加圧水型」の両方を設置しているのは、日本と台湾である。韓国と中国は「加圧水型」だけである。

台湾は九州とほぼ同じ位の大きさの島である。世界最大の島はグリーンランド(デンマーク領)である。参考までに本州・北海道・九州・四国と台湾の島面積世界ランキングを示す。

    7位 本州
  21位 北海道
  36位 九州
  38位 台湾
  49位 四国

台湾と九州の対比を行う。参考までに、約倍の面積を持つ韓国も対比に加えた。

         九州            台湾            韓国
①面積    36,749平方km     35,801           100,210
②人口    1,315万人        2,324            5,000
③原発    6基526万kw      6基494万kw        25基2,312万kw
④電力会社 九州電力        台湾電力公司(国営)   韓国電力公社(国)
⑤発送電   独占           独占            分離
 
                                      送電公社株51%国有
                                      多数の発電会社あり

台湾電力の燃料別発電割合は下記である。(2010年統計)

①石炭    49.9%
②天然ガス 24.6%
③原子力  16.9%
④石油    3.8%
⑤水力    2.9%
⑥その他   1.9%

台湾には、ウラン濃縮工場や原子力発電所用の燃料集合体製造工場は全くない。原子力発電所用の燃料集合体は全て、外国に注文して輸入している。
使用済み燃料の再処理も、外国に依存するほかないと推定する。現在のところは、原子力発電所の使用済み核燃料は全て、各原子力発電所毎に各々保管されている。

2011年統計であるが、各発電所の使用済み燃料プールに保管されている使用済み燃料集合体は、合計約15,000体である。各発電所の使用済み燃料プールの保管能力は、合計約20,000体である。
当面問題はないが、早晩「燃料プールの増設」か「使用済み燃料の再処理委託」を行うことになると推測する。

台湾は、火力発電所11か所・水力発電所11か所・原子力発電所3か所がある。目下原子力発電所の4か所目を建設中である。
台北の北方に第一・第二原子力発電所、台湾の南端に第三原子力発電所、台北の東方に第四原子力発電所がある。

各原子炉の一覧表を以下に示す。

場所     号機  万kw   着工    商業稼働   型式
第一      1   60.4   1972/6/2   1978/12/10  沸騰水型(BWR)
(金山)     2   60.4   1973/12/7  1979/7/15   沸騰水型(BWR)
第二      1   94.8   1975/11/19 1981/5/21   沸騰水型(BWR)
(国聖)     2    94.8   1976/3/15  1983/3/16   沸騰水型(BWR)
第三      1   91.9   1978/8/21  1984/5/9    加圧水型(PWR)
(馬鞍山)    2   92.2   1979/2/21  1985/5/18    加圧水型(PWR)
第四      1   130.0   1999/3/31  未定      改良沸騰水型(ABWR)
(竜門)      2   130.0   1999/8/30  未定      改良沸騰水型(ABWR)

改良沸騰水型炉は、日本で改良された沸騰水型の原子炉である。竜門原子力発電所は、米国を経由させる日本からの間接輸入が前提になっている。
住民の反対運動も強く、設置の可否は住民投票(2013年8月の予定)で決める予定である。

福島第一原子力発電所で炉心溶融事故を起こしたMark-I 型のBWRは、安全上の問題点が多い。このため、日本国内では廃炉又は営業運転終了の処置がなされている。
台湾の金山原子力発電所1・2号機は、Mark-I 型の格納容器である。現在も、けなげに頑張って商業運転を続けている。台湾は、日本に負けないほどの巨大地震が起こりうる場所である。ただひたすら無事を祈っている。

台湾の南端から東方80km程の所に蘭嶼という島がある。この島に台湾当局は1980年核廃棄物貯蔵所の建設を開始した。核廃棄物貯蔵は1982年から実施されている。1988年2月、現地のヤミ族の団体が核廃棄物貯蔵所に対する反対運動を始めている。
以上