2010年7月27日火曜日

底抜けの氷床

 最後の氷河期であるヴュルム氷河期には、様々な地方が氷床・氷河で覆われていた。我が国では仙丈岳大カール(南アルプス)や宝剣岳の千畳敷大カール(中央アルプス)は、ヴュルム氷河期の痕跡として有名である。ヨーロッパアルプスは大氷床に覆われ、スカンジナビア半島・デンマーク半島も大氷床の下だった。
 ところがミランコビッチの氷河期サイクル(前編参照)により、地球温暖化が始まった。当時(数万年前)の人類は極めて謙虚な生活を行っており、温暖化防止・環境保護を唱えるNGO・NPOは全く存在せず、何のキャンペーンも行はれなかった筈である。従って驚くべき速さで温暖化が進展してしまった。約2万年前に、スカンジナビア半島・デンマーク半島・ヨーロッパアルプスから氷床が消失した。一面の白銀の大自然が、草木に覆われた緑の大地と化したのである。これを「無残な自然破壊」と嘆く人々は無論皆無であったろうと推察する。ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フィンランド・バルト3国・等々の人達は、温暖化に足を向けて寝られない筈である。
 しかし近頃の人類ともなれば、「過れば民の嘆きなり、八大竜王 温暖化止めさせ賜え」と鶴岡八幡宮に嘆願しかねない情勢である。

 「閑話休題」。『ダンスガード・オシュガー イベント』(前編参照)は、「現在~25万年前の気温記録」であるが、「25万年以前の記録が残っていないのは何故か」が問題なのである。
 グリーンランドは、「25万年以前は氷床が無く、名前の通りグリーンランドであった。」と考えるのは、全くの早計である。



 グリーンランドの氷床は、厚さ3~4Kmである。氷の温度伝導度は金属の1桁下、大理石・花崗岩と同等である。従って氷床は分厚い布団と考えたほうが良い。表面温度は-30℃でも、底のほうは地熱で暖められて水となっている。(常温の地表を3~4Kmも掘れば、底は地熱で相当に熱く、温泉が噴出する場合もある。)


 要するに、氷床表面に雪が積もり、現在のO18/O16比のデータ記録が残されるが、その積もった分だけ氷床底部では、地熱による氷の融解で折角の古い記録が泡沫(うたかた)として消されてゆく。グリーンランドでの気温データの保管期限は25万年と決められていたのである。


 私の計算では、もしも氷床厚さが1Km以下であれば気温変動データが永久保管された筈である。しかるに誠に残念ではあるが、新しい気温データが次々に雪と共に降り積もって分厚い氷床(布団)となり、底が融け始めて、保管期限が自動的に定められるようになってしまった。



 「閑話複題ヴュルム氷河期の終焉に戻る。ミランコビッチ氷河期サイクルの「スカンジナビア・グリーン計画」は、太陽熱利用のトップダウン方式で強力に推進され、ほんの2万年程度の期間で実現された様である。


 地熱利用のボトムアップ方式に比べ、太陽熱利用のトップダウン方式の融解作業は2桁ほどエネルギーが大きく、厚さ数キロの氷床を2万年程度で雲消霧散させてしまった。



 右側の写真は、中央アルプス宝剣岳の千畳敷大カールである。 ヴュルム氷河期の氷河の痕跡と言われている。