2013年5月19日日曜日

アベノミクスの冷静な評価

『アベノミクスの真価』で、私は肯定的な期待論を述べていますが、専門家の冷静な見方ではどのように評価されるのか不安であった。
このため旧友に、私のたっての願いとして、『アベノミクスの真価』についてのコメントを求めた。旧友とは誠に有難いものである。直ちに懇切丁寧なコメントを寄せてくれました。
彼の了解を得て、満腔の感謝と共に旧友の論評を出来るだけ正確・忠実に紹介します。以下は旧友の評論を、そのまま記載したものです。(雲行注:は私の注記です。)


金融政策の転換は、以前から一部で主張されてきました。いささか遅まきの転換とゆうべきかもしれませんが、とにかく円安の促進という効果は、かなり実現しつつあります。それが輸出拡大等を通じて、経済拡大とデフレ脱却に一定の効果はもたらすでしょう。
しかし、デフレの克服にまで至るかどうかには、まだまだ疑問が多いです。新型の金融政策は、「人々のインフレ予想に影響を及ぼすことを通じてインフレを実現する」という、新型の今まで試されたことのない政策で、「ばくち」の要素があります。

また、円安は両刃の刃でもあり、行き過ぎると大きなリスクがあります。原発事故でエネルギー輸入依存が大きくなり、電機エレクトロニクス産業などの競争力が基本的に低下している現状では、下手をすると経常収支の長期的激減を通じて、円安に歯止めがかからなくなる危険もあります。ほどほどの円安で止まればよいのですが。(自分の国の通貨の下落を喜んでばかりいて、それによる株高に現をぬかす国が健全でしょうかね。?)

さらに大きな問題は、日本経済の最大の問題であるGDPの2倍以上に達する公債残高(雲行注:本ブログ2012年7月「税金」を参照されたし)をどうするかの明確な政策がないままでの「ばくち的政策」は、多少長期で見ると非常に危険だということです。公債の累積は「少子高齢化の問題」と「経済停滞」によるとみて、前者に対する有効な対策は殆ど無いようですし、アベノミクスの第三の矢もほとんど注目すべきものがなさそうです。
財政出動で景気を支えても、公債累積を加速するだけです。消費税を上げるといっても、それによる増収の多くは使い道が決まっていて、どれだけが財政健全化に回るかさえ分かりません。

日本経済の現状は、本当に危険一歩手前の状態ではないかと思います。アベノミクスの有無にかかわらずそうですが、アベノミクスは一時的には人気を得る代わりに、バブル的なものに終わる公算が高いと私は思います。一層悲惨な結果にならなければ良いがと思っているのは、多分私だけではないでしょう。

一つ大事な点を記し忘れていました。
アベノミクスの一つ、「金融超緩和とインフレターゲット」には一つの矛盾があります。成功してインフレ率が2%になったとすると、常識では長期金利が3~4%にはなるでしょう。日本の公債残高はGDPの200%ある(政府保有分を除いても150%はあると思う)から、発行公債全体の金利の2~3%ポイント上昇による財政の金利負担が、少なくともGDPの2%分は増えるでしょう。公債残高がGDPの1.5倍としても、金利負担の増加はGDPの3%になり、年約15兆円になりますし、公債残高がGDPの2倍とすると、金利負担はGDPの4%も増えます。そうなるとこれだけで「消費税増税5%分」を食ってしまいかねません。
長期金利上昇は、そのほかにも「企業の借入金利の上昇」・「住宅ローン金利の上昇」などを通じて、経済拡大にマイナスに作用します。
もちろん金融超緩和には経済へのプラス効果もあるが、これらはそれをある程度打ち消します。

全体としてどうなるかは、色々な条件によって変わってきますが、公債残高の巨大さの影響や円安の行き過ぎなどが問題になると、マイナス要因が大きくなり、政策自体の変更もあり得ます。超金融緩和が遅すぎたきらいがあるという印象は、公債残高がまだ割合小さい段階でなら有効だったという意味です。
以上は、アベノミクスの大きなリスクの一面です。
以上

2013年5月11日土曜日

アベノミクスの真価

自民党第2次安倍内閣が提唱する「アベノミクス」は、レーガノミクスを真似た命名と思うが、うまい命名である。下記の3つの経済政策が基本となっている。

  1. 紙幣の多量な印刷発行
  2. 機動的な政府財政支出
  3. 民間投資の惹起
これを「3つの矢」と呼称している。

2012年11月16日民主党野田内閣により衆議院が解散され、12月16日第46回衆議院議員選挙が行われた。結果は自民党の大勝となり、12月26日第2次安倍内閣が発足した。
衆議院解散により、自民党政権の可能性も出てきたので、自民党党首安倍晋三提唱のアベノミクスが注目され、衆議院選挙前から思惑買いによる円安・株高の傾向が表れ始めたようである。2013年5月10日現在では、円安・株高はさらに進行し、100¥/$の円安・日経平均株価は14,600円近くに上昇している。

アベノミクスは、名目2%のインフレが謳い文句である。日銀は市中銀行から日本国債を買い集め、1万円札の多量発行を行っている。これが「1の矢」で、既に「射方始め」の号令が掛かっている。
「2の矢」は、政府の災害復興予算等の実施で、昨年度予算は実施された筈であり、本年度も実施されることは間違いない。
「3の矢」が問題である。安倍首相は経済界に③のお願いをしているが、十分な実施が行われるかどうかはわからない。これからの問題である。
3つの矢がそれぞれ有効であったとしても、これだけでは、デフレ脱却にはならない。肝心な話は、労働者の所得が増え、様々な買い替え需要や新規消費が増加し、内需拡大が進行して初めて、貧乏神デフレを退治したことになる。

安倍首相は、毛利の末裔に関係があるのかもしれない。毛利元就の「3つの矢」の話は有名である。アベノミクスは、デフレの泥沼にはまり込んだ轍を動かすために、「3つの矢」を共同して使わなくてはならないと力説しているのである。

私はアベノミクスに大賛成である。維新の会の石原慎太郎衆議院議員もテレビでそのような発言をしていた。私が彼の意見に同感できたのは、この時だけであるかもしれない。
とにかく、アベノミクスで経済の轍が辛うじて動き始めた様に思える。

安倍総理、広島のサンフレッチェ(3-frecce:3本の矢)の話も結構ですが、もっとどでかい「サン・バズーカ」とか「サン・ミサイル」とか近代的な巨大施策の「つるべ撃ち」で、10年来圧迫され続けていたデフレを退散させ、日本経済を立て直し、世界経済に活を入れて戴きたい。

円安で、やっかみ半分の悲鳴を上げているのは、韓国と中国である。韓国は今までの意図的なウォン安政策を棚上げにして、国内的に「円安脅威論」を膨らませるのに躍起になっているようである。中国は「通貨の世界戦争」の危惧を吹聴したいらしい。米国の自動車業界もびくついているに違いない。

アベノミクスの1撃で国際社会は多少揺れ動いたようである。それだけで一応の効果はあったと認めたい。正当な円安で日本経済が立ち直ることは、世界経済にとって極めて大切なことだと私は信じている。完成品の輸出も大切であるが、部品の輸出もそれ以上に大切で、世界経済に大きく貢献する。品質管理の徹底した日本製部品の使用は効率と耐久性が抜群であり、世界中で歓迎されるはずである。

アベノミクスの別の効果も指摘しておきたい。
日銀が市中銀行から徹底的に日本国債を買い上げてしまったことから、日本国債の大部分は日銀の倉庫にしまわれたとみていい。「国債の購入は、通貨の発行額以下に抑える」との日銀内規がある様な話も聞くが、経済的に格別な意味はないらしい。

日本国債の大部分が日銀所有となっていれば、「禿鷹ファンド」等の魑魅魍魎(チミモウリョウ)の暗躍の余地は全くなくなり、日本国債が売り叩かれて暴落する心配は皆無である。また様々な格付け会社が、勝手気ままに日本国債の格付けをしたとしても、気にする必要は全くなくなる。日本国債は安心安全である。

長年にわたる円高で、日本の国際経常収支は2004年の1721億ドルをピークとして減少を続け2012年は590億ドルまで低下してしまった。貿易収支は既に2年連続マイナスである。
これが2013年のアベノミクスにより「正当な円安」に転ずれば、貿易収支はプラスに代わり、経常収支も好転するはずである。これで本来の貿易立国日本に立ち戻れると思う。ただし貿易も大切であるが「国民所得の増加による内需拡大」はそれ以上に肝要であることを忘れてはならない。
以上