2015年11月15日日曜日

もんじゅ 哀れ

もんじゅ は、福井県敦賀市白木2丁目1番地に建設された原子力発電所である。所有者は独立行政法人「日本原子力研究開発機構(国立研究開発法人)」である。文部科学省の所管である。


右の写真は、弊著 原子力発電 から転載したものである。 

「もんじゅ」の正式名称は、『高速増殖原型炉もんじゅ』である。

高速増殖炉とは、高速中性子によるウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)の核反応エネルギー(熱)を利用する原子炉である。原子炉内にブランケットと呼ばれる部分を作り、天然ウラン燃料を置いておくと、原子炉の運転で消費するプルトニウムよりも天然ウラン燃料から生産されるプルトニウムの方が多くなるのである。生産プルトニウムと消費プルトニウムの比率を増殖比と言い約1.2が目標である。
打出の小槌のような有難い話であるが、これが増殖炉と呼ばれる処の本当の意味である。

「原型炉」とは、初めて発電を行うテストプラントという意味である。電気出力は、28万kwである。
勿論その前に「高速増殖実験炉」と言うものが建設されており、各種の検証実験が行われていた。原研大洗に建設された「常陽」である。発電はせず、原子炉で発生した熱はそのまま大気中に放出している。

1985年10月、「もんじゅ」建設着工。
1991年5月、機器類の試運転開始。
1995年8月、発電開始。同年12月、ナトリウム漏えい事故。
2010年5月、運転再開。7月、炉心確認試験終了。
同年8月、原子炉上部にある回転プラグから、燃料中継装置が原子炉容器内に落下。

2012年11月、原子力規制委員会は保安規定に基づく機器の点検漏れ 9679個 があったと公表。
2015年11月、原子力規制委員会は『日本原子力研究開発機構(原研)に運転を任せるのは不適当だとし、これに代わる運営主体を定めるよう文部科学大臣に勧告』を決めたようである。

もんじゅ は、発電開始から今日まで僅か3か月間余りしか発電していないのである。しかも現在の状況から考察すれば、運転主体が宙に舞い上がってしまい、悲しいかな現状のまま放置される可能性が極めて高くなったと推察される。

もんじゅ は、日本国の将来のエネルギー問題解決策の夢として、国家プロジェクトとして建設されたものである。日本原子力研究開発機構が国家予算を使用し、国内の原子力メーカー各社がそれぞれ機器の分担を定めて建設が進められた。
大雑把に分担を記載すれば、東芝は原子炉上部に置かれる回転プラグ関係、日立はナトリウム冷却系、三菱は蒸気発生器関係、富士は燃料交換機関係である。
1995年12月のナトリウム漏えい事故は日立所掌分であり、2010年8月の燃料中継装置の落下事故は東芝所掌である。

ナトリウムは常温でも水と激烈な反応を行い、水素ガスを発生する。三菱所掌の蒸気発生器は驚異的な装置である。数百度の液体ナトリウムの熱で、タービン発電機を回す過熱水蒸気を造るのだから大変である。もんじゅの発電期間は僅か3か月程度しかなかったので、「ナトリウム-水」隔壁の腐食減耗は全く問題にならなかった。
富士の燃料交換系は、3か月程度の原子炉運転では全く燃料交換する段階には至っていない。

原子力規制委員会の勧告は、「有識者の非常識」の典型かもしれない。これは自戒を含めた格言である。『有識者も、専門外ではただの素人である。』の意味合いである。

もんじゅの試運転開始から今日までに25年ほどが経過している。時移り人は去り、原子力業界でのナトリウム技術者はほとんど残っていない。2010年の運転が、限界だったのかもしれない。すぐに事故を起こしてしまった。

この期に及んで、日本国中の何処をどのような探し方をすれば『新しい運営主体』が見つかるというのであろうか。
点検漏れ1万か所を放置したまま(特別に危険であると言うわけでもない)、今後も長期間にわたり もんじゅ は放置され続けるであろうと推測され、誠に哀れである。


高速増殖炉の先進国は、フランスであった。フランスは既に高速増殖炉を卒業したように見受けられる。
高速炉フェニックスは、電気出力23.3万kwであった。1968年 着工。運転開始 1974年2月。運転終了2010年2月。
高速炉スーパーフェニックスは、電気出力120万kwである。1977年 着工。運転開始1985年。運転終了1998年12月末日。
フランスは、プルトニウムを再生産する高速増殖炉は、スーパーフェニックスで完了させた。国家政策として、プルトニウムを貯め込むことをやめたのである。

ウラン資源は世界的には有り余るほどある。高性能遠心分離機が開発され、通常の原子力発電所用燃料の低濃縮ウランは簡単に製造できる。
核兵器製造の疑惑を持たれる『プルトニウム貯蔵』は、避けるのが賢明な選択である。

最近フランスで計画されている高速炉は、 ASTRID である。ASTRID の電気出力は、60万kwである。2015年から基本設計開始。2025年頃運転開始予定。
 ASTRID (Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)
工業技術展示用の改良型ナトリウム冷却原子炉である。
以上